「はい。ええ。こっちでちゅ」
黄色のうさもぐらんの後を慌てた素振りなく追いかけるリーベルとジェフ。
落ち着いたふりをするのは怪しまれないようにするためだ。
この黄色いうさもぐらんの話が本当なら、もうすぐジャンが囚われた牢屋に着くはずだ。
奇妙な3人(2人+1体)のパーティが結成されたのは昨夜になる。
ヒュードラという四天王の使者に見つかったリーベル。なんとリーベルの影に入り込み、後をつけていたのだ。
すでにジャンは使者に見つかり、牢に入れられたという。
正体がばれたら一巻の終わりだったが、その使者は自信がありすぎたのだろう。
大声で騒ぎ立てたりせず、静かにリーベルを捕らえようとしたことが幸いした。
事態を察知して眠りから覚めたジェフと二人で速攻を仕掛け、騒ぎが大きくなる前に四天王の使者を倒すことに成功したのだ。
倒れた使者は、スーッと実体が影のように消え去ってしまった。
騒ぎが大きくならなかったといっても目撃者が全くいなかったわけではない。
それが黄色いうさもぐらん、くっぴーだ。
使者が出現した時に、驚きのあまりひっくり返ってしまったこのうさもぐらんはさかさまの態勢のまま、3人の戦いを見守ることになった。
「えっ?えっ?えっ?」
あれよあれよという間にリーベルとジェフの二人は四天王の使者を追い詰め、やっつけてしまった。
コロン。
驚きのあまりもう一転びして元に戻った黄色いうさもぐらんは
「す、すごい!僕を仲間に入れてほしいでちゅ」
仲間になりたいと言い出したのである。
どうやらこのモンスター、もともと戦いが大嫌いで誰にも見つからないように砂漠の隅っこで生きていたそうだ。
「盗賊のアジトに行くと何もしなくてもおなか一杯ご飯が食べられる」とだまされてここまで来たという。
人間と仲良くしたいのだが、人間は自分を見ると武器を持って追いかけてくるので全然仲良くなれないまま、今日に至るという。
だから寝床で震えていたのだ。考えようによってはかわいそうだ。
素早く考えを巡らせたリーベルは
「名前はなんて言うの?」
「くっぴー」
「じゃあくっぴー。僕たちの仲間が牢屋で捕まってるんだけど、牢屋の場所はわかる?牢屋の場所や盗賊団のことを教えてくれたら仲間になってもいいよ?」と言った。
「うん!うん!僕に任せるでちゅ。優しい人間に会えてうれしい!付いてきて」
すぐ行こうとするくっぴー。
「ちょっと待って。こんな時間にうろうろしてたら怪しまれちゃう。明日、朝ごはんを食べに行くときに教えてくれる?」
こういった経緯を経て、今に至る。
「あそこの角を右に曲がったところでちゅ」もう近い。
事前の打ち合わせ通り、今はジャンの様子を見るだけだ。
牢にカギがかかっているか?見張りの門番はいるか?何よりジャンは元気にしているか?
角を右に曲がった。牢屋があった!
約30センチ四方の格子の奥にジャンがしょんぼりして座っている。
格子にカギがかかっているわけではなさそうだが、見張りのモンスターが1体いた。
牢屋の外ではあるが、そばにハヤブサの弓などジャンの装備が置いてある。
何気なく周囲を見渡すリーベル。
朝ごはんの時間帯で行き来するモンスターが多く、いま救出しようとしたら間違いなく失敗するだろう。
いま動くことはできない。ジャンの様子が見られただけでもよしとしなければ。
「おつかれさま」
怪しまれないよう、見張りのモンスターに声をかけて牢屋の前を通り過ぎる。
ジャンは気づかなかったようだ。
「後で必ず助けるからね」
リーベルは心に誓い、食堂に向かった。
それぞれ食料を手に取った。
モンスターたちが輪になって話をしている場所の近くにさりげなく座る。
もちろん話を聞き、情報を得るためだ。
「・・・おう。お前も聞いたか。今日の昼にボスが何か号令を出すらしいぞ。俺ら配下のモンスターは全員『集会の間』に集合ということだ。四天王 ヒュードラ様の使者がロドリゲス様のところに来て、一緒に戦うぞという話をしたっていうし、いよいよモンマルトル寺院のルークと一戦始まるぜ」
「うちらのボスのところにも使者が来たんだろ?ピラミッドの場所を示す 【ログ・コンパス】を絶対に守れってな。その話だな」
「いやいや、わしは『疾風』のことだと思うぞ。疾風をやっつけるために2番隊が出たからな。今日あたり、そろそろ帰ってくる頃じゃねえかと思ってる。『おめえら、ついに2番隊が疾風を仕留めたぞー』ってな。ボスが言いそうじゃねえか」
「確かに!がっはっは」
「砂漠の暴君 ロドリゲス」と「モンマルトルの剣聖 ルーク」が争っているのは間違いなさそうだ。
それにしても「四天王 ヒュードラ」というのは何者なんだろう?
四天王というだけあって、他にも3体いるのだろうか?
「・・・うん。そうそう。昨日、アジトに潜入していた曲者が捕らえられたらしいぞ。その曲者というのが、なんと子供らしい。いつの間に、そして何のためにアジトに潜入したんだっていうことだよな」
リーベルの体が硬くなった。ジャンのことだ。
「昼の号令の後、夕メシまでの時間にボスが直々にその子供に尋問するらしいぜ。ただ単に道に迷いました。迷子です~ってことはねえだろうからな。ぎゃはははは」
夕方までにジャンが尋問されるだって?これで決まった。
時間に余裕はない。夕方までに作戦を立ててジャンを救出しなければ!
「・・・ベル、リーベル?」
はっとした。
何度呼んでも気づかないので、くっぴーはリーベルの膝をツンツンしていた。
「ぼっくんは嫌な戦いをさせるロドリゲス様やボスなんかより、優しいリーベルが好きでちゅ。だから、絶対リーベルのお友達を助けたい。昼にボスから何かの号令があるんだったら、その命令によってアジトの中は騒がしくなると思う。お友達を助けるにはその時しかないと思うでちゅ。それまでにぽっくんのできることは、アジトの中を案内して道を覚えてもらうことでちゅ」
「確かにそうだな。くっぴーの言う通り、今できることをやろうぜ。せっかくジャンを助けても道に迷って捕まった、じゃ話になんねえからな」
ジェフさんが優しく諭してくれた。
「はい。ありがとうございます。じゃあくっぴー。道案内を頼んでいいかい?」
「任せるでちゅ」
3人(2人+一体)はアリの巣のようになっているアジトの中をくまなく歩いた。
外につながる出入口は3つ。
食堂から集会の間、普段ボスがいる寝床の場所(さすがに寝床までは行けなかったが)までの道を覚えた。
右か左か?一瞬の判断が運命の分かれ道になるかもしれないからだ。
そうこうしているうちに昼が来た。「集会の間」へ向かった。
一体盗賊団のボスは何の号令をかけるつもりだろう?
ゾロ、ゾロ、ゾロ・・・。体格の大きなモンスターたちが集会の間に集まってくる。
ここは相当広い造りになっており、食堂の3倍はありそうだ。
「おっ!来たぜ?」
一段小高くなっている場所に盗賊団のボスが現れた。大きい。
リーベルの周りにいるモンスターたちも大きいが、もう二回りは体格が大きそうだ。
顔には覆面をしているが、大きな顔を全く隠しきれていない。
一瞬の静寂。そして
「皆の者!ついにこの日がやってきた」
盗賊団のボスが大声で話し始めた。
「獄竜王様とセム様がウォリス城に封印されてから何年の月日が流れただろうか。ついにお二人を外の世界にお出しする時が来た」
何かの演説みたいだ。それにしても、獄竜王とセムが城に封印されたって?
「獄竜王様の自由を奪っている3つの聖石のうち、『勇気の聖石』が何ものかに奪われた」
ザワザワザワ。
「やっぱり噂は本当だったんだ・・・」
リーベルはポケットに入っている『勇気の聖石』をぎゅっと握った。
「四天王 ヒュードラ様は『勇気の聖石』を奪ったのはモンマルトル寺院で、大きな戦力で攻めたと考えている。それは逆に、今モンマルトルは手薄になっているわけで、大チャンスということだ。よって、ヒュードラ様とロドリゲス様が合同でモンマルトル寺院に大攻勢を仕掛けることとなった!ルークを倒して『力の聖石』をゲットしさえすれば、後は簡単だ。『勇気の聖石』を持ってのこのこモンマルトルに帰ってきた連中をぶっ倒して聖石を3つ揃え、獄竜王様とセム様を外の世界にお出しするというわけだ!」
「四天王のヒュードラって?」
リーベルがくっぴーに聞いた。
「暗黒神官セム様の直属。すっごく強い4体の幹部を四天王と呼んでいるでちゅ。2体はすでに白銀の勇者に敗れ、ナダリィ様は獄竜王様、セム様と一緒にウォリス城に封印されていまちゅ。外の世界で唯一生きているのがヒュードラ様。獄竜王様を結界から解放するための総司令官でちゅ。ロドリゲス様も偉いけど、ヒュードラ様の方が偉いでちゅ」
今まで聞いていた話と全然違う。
無敵の結界は獄竜王を守るために作られたと聞いていたが・・・。
モンスターの側からすると『獄竜王は封印されていて、結界を解きたい』ということのようだ。
一体どうなっているのか?
「モンマルトルを攻める前に、ロドリゲス様の軍勢はステイシアの町を攻める。期日は1週間後、満月の翌日である!我々盗賊団の役割はロドリゲス様の援護と【ログ・コンパス】の死守だ。ロドリゲス様留守の間にピラミッドが攻められたら大変だからな!」
「とらえた子供はどうするんですかい?」
誰かが尋ねた。
「ん?ああ、昨日の子供のことか。もしかしたらモンマルトルの回し者かもしれん。わし自身がきっちり話をするわい。そして、みんなにいい知らせじゃ。みな心配している『疾風』についてだが、わし自慢の2番隊がやつを捕捉し、戦闘に入ったという情報が入った。そろそろ勝利の報告が来る頃で・・・」
「ボ、ボスーー!」
集会の間につながる通路の1つから1体のモンスターが飛び出てきた。足元がふらついている。
「おーおー。ちょうどよいタイミングじゃ。どうじゃ?疾風をやっつけたか?」
「疾風が!疾風が!!」
「うん。疾風が?そうか!仕留めたか?」
「2番隊をほぼ全滅させ、アジトに逃げ帰った残党の後を追って・・・」
「ん?2番隊の残党を追って?」
「すでにアジトに侵入していまーす!!」
ドッカーン!
洞窟のどこかで大きな音がした。
「なんじゃとー!?んなあほな~」
ウワワアァアアアアー!!
『疾風』がその先にいるのだろうか?1つの通路からモンスターが逃げるようにあふれ出てくる。
集会の間はパニック状態となった。
逃げる者、戦おうとする者、どうしていいかわからない者。
皆が右往左往するその中で、ボスに近い位置に20体くらいのモンスターがいた。
全く慌てた様子がなく、落ち着いている。
「1番隊!わしの最強の1番隊!疾風を、疾風を倒すのじゃ!」
「はっ」
この20体が最強の1番隊なのだろう。
隊長らしきモンスターが何か言うと、整然と疾風がいるであろう通路に向かった布陣した。
この広い「集会の間」で敵を迎え撃つつもりなのだろう。
その動きの素早さ、しなやかさ。リーベルが見ただけでもわかる。
1番隊のモンスターは強い!
しかし、今やるべきことはジャンの救出だ。このパニックは大チャンス。願ったり叶ったりだ。
リーベルとジェフ、くっぴーは牢屋への通路を走った。
目の端に、集会の間から1つの通路に出るボスの姿が見えた。
ひたすら走る。誰も他の者のことなど気にしていない。
「いける」
リーベルは思った。迷わず牢屋に着いた。門番は・・・いない!やった。
「ジャン!ジャン!今助けるからね!」
「あー!リーベル!やった!助かった!」
リーベルとジェフで格子を破壊した。見張りがいないから楽勝だ。
「ふいー。どうなることかと思ったよ~。いきなり自分の影がゆらゆらとさ~。でもこの騒動は一体何なの?」
まくしたてるジャン。しかし、今は喜んでばかりいられない。
「ジャン。話は後で。こんな騒ぎだから、ボスを倒して『ログ・コンパス』をゲットするチャンスなんだ」
「えっえっ?マジ?今から?そしてこの黄色のうさもぐらんは何?」
「くっぴーでちゅ。リーベルの友達が助かってよかったでちゅ」
「とにかく走るぞ!」
ジェフさんが先頭を走ってくれた。
道はばっちり覚えている。あの道は、外への出入り口の1つだ。
ドガーン!ドゴーン!うわー!戦闘の音だろう。大きな音がひっきりなしに聞こえる。
覆面はもう外している。よく見なくても人間とわかるはずなのに混乱してしまえばこんなものか。
モンスターたちは誰も気づかない。さえぎる者なく、最短でボスを追いかけた。
もうすぐ外への出入り口、という時、横穴があった。そこに大きなモンスターがいる。
背中越しにこっちを向いてびっくりした、みたいな態勢で止まっている。
明らかにさっき演説をしていたボスだ。
手には何か時計のようなものを持っている。【ログ・コンパス】だろう。
「えっ?人間?こども?」
「ボスなのに、一人で逃げようとしてたんだ?」
ジャンが聞いた。
「えっ?ボス?ボスじゃないよ?ボスはあっちに行ったよ?」
白々しいことを言った。
「覆面被っても顔が隠しきれてないですけど?ボスさん?」
リーベルが一歩前に出た。
「きー。ばれたぁあー!もうやるしかないもんね。おう。やってやろうじゃねえかー」
コミカルだけど、強さは本物だ。リーベルは集中力を高めた。
盗賊団のボス ウギー
えっと。ちょっと待ってね。1番隊。うん。わしの最強の1番隊。いちばんたーい!!集合ー!!ん?来ない?なんで?あっ。そっか。疾風ね。疾風を倒すために行ったもんね。じゃあ2番隊は?あーそうね。2番隊がやられたからアジトの場所がばれちゃったのかー。そっかー。あ、繰り返しになるけどボスじゃないよ?ボスはさっきあっちに行ったし。そしてこれは【ログ・コンパス】じゃないよ?光が出てる方向に行ってもピラミッドはないよ? ってもう全然信じてない顔してるぅぅー。もうわかった。やってやるわー!
ペンタコイン×3枚
①英語(TOEIC)や簿記などの資格や
受験勉強、お子さんの漢字/計算
学習など習慣づけしたいことを「
1日30分」あるいは「1日30回」
実施してください。
②1日できたらペンタコインを1枚ゲ
ット。盗賊団のボス ウギーは3枚
持っているので3日実施出来たら
勝利です。次のストーリーに進ん
でください。
盗賊団のボス ウギーの紹介
大きな体で本当は強いのだが、気は小さい。無理してはったりをかましているうちにあれよ、あれよと言う間に盗賊団のボスになってしまった。自分がボスをやっているのが恥ずかしく、顔を隠したいから覆面を被っているし、部下にも覆面を被るように指示している。最近アリを手のひらに乗せて遊ばせることにはまっている。