午後の稽古が始まった。この稽古はアリサが魔法を通わせた紙飛行機をリーベルに飛ばすことから始まる。
この紙飛行機には魔法が通っているので自然と地上に落ちることはない。リーベルは座ったままで手を使わずにその紙飛行機を落とすのだ。落とし方は2つ。
①魔法を発動して落とす
②体内で練り上げた『気』を当てて落とす
アリサの魔法を付与された紙飛行機はゆーっくりとリーベルの周りを飛び、任意のタイミングでリーベルに衝突してくる。
リーベルに衝突すると微弱ではあるがアリサの魔法が発動する。例えば『サンダー』を付与された紙飛行機にぶつかったら全身がしびれる、といった形だ。
魔法を使えるものは①によって飛行機を落とすことができる。しかしリーベルのように魔法を使えないものは②の選択肢を取るしかない。すなわち、自分の練り上げた気を飛行機にぶち当てるのである。
「いい?何度でも言うわよ?自分が魔法を使えるか使えないかは大した問題ではない。相手が魔法使いだった場合の対策ができるかどうか?が問題なわけ。魔法を使るなら魔法で相殺したらいい。魔法を使えないなら練り上げた気を魔法にぶつけて威力を殺す。魔法の材料は練り上げた『気』で同じだからね。これができなきゃ力のある魔法使いに出会った瞬間にジ・エンドだよ」
「うわっ!あつっ!」
上手く気を練って当てることができないとこうなる。烈・ファイアを体験した時、アリサ先生が「気を体に巡らせて!」と言ったのは防御するためだったのだ。
稽古をして最初のうちは、座ったリーベルの周りを数十機の飛行機が飛んでいた。
それから何十日が経っただろうか・・・
目を閉じて座禅を組んでいるリーベルはまるで見えているからのように感じていた。丹田で増幅した『気』が体中を駆け巡るのを。濁流のように量は多いが、清流のように静かに流れている。
不思議な感覚だった。もはや体を動かしながらでも気を練ることができる。いや、体は気を練りながら動かすものなのだ、ということに気づいた。
今ではアリサの紙飛行機をすぐに全機撃ち落とせる。だが、どれだけ『気』の扱いは上手くなっても魔法を発動することはできなかった。
アリサがいつだったか、こうつぶやいたのを覚えている。
「ふーん。『気の扱い』はともかく、能力としては母似ではないようね」
どういうことだろう?
ある夜アリサとリーベル、そして『守の試練』をクリアしたジャンと3人で晩御飯を食べていた。
「ジャン。ついにやったね」
リーベルも嬉しい。
「もうさー。スナイデル先生が速いのなんのって。僕の弓よりも速いじゃないかって思ったよ」
「だよね」
苦難を共にしたからこそわかることがある。
「僕も動き回って先生の動きを先読みし、撃ちまくったよ。たっぷりと用意した弓がなくなりかけた時、読みが当たったんだよね」
「えっ?先生に弓を当てられたの?」
「うううん。先生に放った弓を、先生が手でつかんだの」
「何それ?そんなことできる人いるの?」
「あの人なら驚くことじゃないわね」
アリサがにっこりしながら言う。
「はい。でも先生は『これでも一撃は一撃だ』と言ってくれたんだ」
どこかで聞いたことがある。
「ところで先生はなぜここで師範代になろうと思ったんですか?」
ジャンが聞いた。
「うん。そうね。信じられる人間がいたからかな」
アリサ先生が話をしてくれた。
「私はね、人間じゃなくて魔女なの」
「えーっ?」
「昔は今よりもっと性格がひねくれていてね。雪山の一角に住んでいて、自分の住む場所に入ってきた人間にいたずらとかしてたわけ。凍らせるわよ~。なんて言ってね」
この話はこうだ。
アリサは小さい頃、人間と一緒に生活をしていた。決して裕福な町ではなかったが、同じ年くらいの子供たちがたくさんいて、学校にも通っていた。
勉強が得意なアリサはよく友達から「アリサちゃん、ここ教えて」とせがまれていたものだ。楽しい生活。
でもアリサには決して誰にも言えない秘密があった。母親から固く禁じられていたこと。それは「自分が魔法を使える」ということだった。
自分で訓練してできたわけではない。生まれつきできたのだ。いわゆる「魔女」というやつだ。
楽しい生活は一件の火の不始末で崩壊することになった。アリサが通う学校が火事になったのある。火元は給食室のようだ。
職員が気づいた時には遅かった。木造の校舎に火が回るのは早く、炎に包まれた。アリサのクラスは火に巻かれる前に避難できたが、アリサの友達がいるクラスは逃げ遅れた。
「まだ校舎に子供がいるぞ!」
それを聞いたアリサは弾けるように走り出した。そして「アイス」の魔法を発動し、火を消し止めたのである。
すすまみれになりながらも校舎から無事脱出できた友達。自分のおかけで命が助かった友達の表情をいまでも忘れられない。
「きゃー!魔女よー」
アリサと母はその町にいられなくなった。二人は自分たちのことを誰も知らない北へと向かい、雪深い山奥に住むようになったのである。
その後の話はアリサが言ったとおりだ。人間を信じられなくなったアリサは人間との関係を拒絶した。自分の生活圏に人間が入ってくると
「人間め。凍らせてやろうか?」
魔法を少し見せて追い払った。二度と近づかないようにだ。魔女にも寿命はある。母が亡くなった後は孤独感からか、より心を閉ざすようになっていった。
こんな日が続くのだろうとぼんやり考えていたが、人間側にも事情がある。
「氷の魔女」の存在が辺りに住む人々の脅威となっていた。困った住民たちは「氷の魔女」を退治するよう腕利きの魔法使いに依頼したのだ。
ある日のことだ。激しく雪が吹雪いている中、一人の刺客がやってきた。
新雪のような純白に赤の指し色が入ったローブをまとっている。一番驚いたのはその若さだ。学校での火事のことを思い出した。私にも若い時があった。
少女の目的は明らかだった。降りかかる火の粉は払わなければならない。アリサは最初から全力を出すことを決めた。
「はあっはあっはあっ」
アリサが膝をついて荒い呼吸をするに至るまで1分もいらなかった。少女は言った。
「あなたの魔法には愛を感じます。ここにいるのは何か事情がありますね?」
なぜだろう。一瞬で自分を負かせた相手に。しかもずっと年下の少女に素直に話をする気になったのは。
話を聞いたその少女は
「私と一緒に来ませんか?誰しもが自らの意思で自分を高められる場所があります。きっとあなたも気に入りますよ」
少女の言葉に溢れんばかりの愛情を感じた。心の底から信頼できる。忘れかけていた、いや、あえて忘れようとしていた感情だ。アリサはモンマルトルに行き、修行をすることになる。
「いまの私がいるのはその少女のおかげってわけ。彼女は『破の間』の師範代だったから私の師匠よ。当時の私ではかなうわけがなかったわね」
「今のアリサ先生とどっちが強いと思いますか?」
ジャンが無邪気に聞いた。
「ふふ。同じ師範代よ。同じくらい、と言いたいところだけど・・・今でも相手にならないわね。あの人は別格よ。『伝説の勇者』ですからね」
「えー?先生でも相手にならないって・・・」
「いいから、まずは自分たちができることをやりなさい。リーベルの試練は明日ですからね。容赦はしないから覚悟しなさい」
そうだ。明日『破の試練』を受けることになっているのだ。方法は『守の試練』と同じ。アリサとの戦いだ。
「はい。全力を尽くします。今日はいいお話を聞かせてくれてありがとうございました」
次の日の朝、リーベルは『試練の間』に座っていた。瞑想し呼吸を整えている。気が体を巡るのを感じる。無音というのはこういうことを言うのだろう。張り詰めた空気。
「では。よろしくお願いします」
向かい合わせで座っているアリサと一礼した。立ち上がった。
剣を構えるリーベル。
「はじめ!」
アリサの合図と同時にリーベルは前方に飛び出した。
深淵の魔女 アリサ
うん。気が全身にくまなく、自然に巡っているわね。質も量も申し分ない。ふふ。粗削りだけど、まるで師匠と対峙しているみたい。これだけの素質があって魔法を発動できないっていうのは逆に笑えるわね。さあ、その力を実戦で使いこなせるかどうか、試させてもらうわよ~。
ペンタコイン×3枚
①英語(TOEIC)や簿記などの資格や
受験勉強、お子さんの漢字/計算
学習など習慣づけしたいことを「
1日30分」あるいは「1日30回」
実施してください。
②1日できたらペンタコインを1枚ゲ
ット。深淵の魔女 アリサは3枚持
っているので3日実施出来たら勝
利です。次のストーリーに進んで
ください。
深淵の魔女 アリサの紹介
モンマルトル寺院で「破の間」の師範代を務める魔法使い。万物の理を修めており、超常現象を操る際の一切無駄のない所作と発動する魔法、そして外見の美しさは敵ですら息を飲むという。本来有限であるはずの魔法力の底を見たものはおらず、本当に人間なのか?とうわさされることもある。気さくな性格だが、瞳の奥に深い影を宿していることを知る者は少ない。