ストーリー

第2話 白銀という男

「ふー。びっくりしたなぁ、もう」

 闘いで砂まみれになったほっぺを砂まみれの手の甲でぬぐうジャン。ひたいに汗がにじみ出ていた。

「完全に切り株だと思ったよね」

 ひざの汚れを両手でパンパンと払うリーベル。油断はしていなかったつもりだが、危なかった。

 まさかのん気にモンスターの上でお昼ごはんを食べようとしていたとは。

 初の実戦で興奮しているのか、さっきまでの食欲が嘘のようになくなってしまった二人。

「もうちょっと先に進んでから食べよう」

 歩みを進めようとすると、

「おい、きみたち。ちいくと待っとくれ」

 びくっとしながら声のする方を見ると、太い木の幹の向こうから一人のおじさんがひょっこりと顔を出している。

 黒い髪の毛とおひげが立派で、おめめがぱっちり。少しやせているが、いかにも元気そうなおじさんだ。

「きみたち、強いのぉ。感心したがじゃ。わしはマリックというもんじゃがの」

 興味津々といった様子だ。どうやら偶然さっきの戦いを見ていたようだ。

「いやな、わしは近くの町で鍛冶屋をしとるもんじゃけんど、砥ぎ石を取りにここまで来たがじゃ。こればあ暑いけん、木陰で休んじょったらいきなり騒がしい声がしての。見たら君たちがモンスターと戦っちょったがじゃ」

 ずいぶん特徴のある方言を話すおじさんだ。

 見ればなるほど。細身だが、腕の筋肉はしまっていて力がありそうだ。鍛冶屋をしているからこうなるのだろう。

「君たちはここで何をしゆうがじゃ?」

「実はぼくたち、獄竜王を倒して世界を平和にしたいと思っているんです。そのためにまずは無敵の結界を破る必要があるから・・・」

 わけを話した。すると

「ほうかい、ほうかい。勇気の聖石があるダマーバンド山に行くため、マエミヤの町に向かっちゅうがか。マエミヤはわしの町じゃけえ、一緒に連れてっちゃる!」

 元気な足取りで歩き始めた。

 道に迷わずに済みそうだし、いつマリックがモンスターに襲われないとも限らない。マエミヤの町まで一緒に行くことになった。

 砥ぎ石が入っているのだろう。歩くたびに背負ったリュックが揺れ「ガシャッ!ガシャッ」と音がする。

「若いのに感心じゃの。けんどのう、獄竜王のことを知ってるがか?」

 マリックが子供の頃に体験したこと、聞いたことを教えてくれた。

 お話をする時、遠い目をしていた。

・・・・・・・・・・

カン!カン!カン!カン!

 モンスター出現時の合図の鐘が町中に鳴り響く。

 大人の男性はそのたびに装備を整えて家を飛び出し、しばらくするとヘトヘトになって帰ってくる。そんな毎日だ。

 大人の女性は戦場には行かないものの一日中武器やよろいの手入れや修理/農業にいそしみ、生活と戦いを支えている。

 子供のマリックの目から見ても大人たちの限界が近いことは明らかだった。

 帰った来た父は防衛線がどうだとか、誰それがケガをした、とか。その日の状況をお母さんと話している。

 決して楽しいお話ではない。心配と不安が友達であるかのような毎日。

 こんな日がいつまで続くのだろう?そう考えていたある日、バタン!戦いの疲れを感じさせない力強さで家のドアが開き、父が帰ってきた。

「やった!やったぞマリック!勇者がついにサギヌマ橋(キシリア大陸とウォリス島をつなぐ大きな橋)のふもとまで到達したらしい。明日かあさってか。準備が整い次第、サギヌマ橋を渡ってウォリス城を攻めるという話だ。わしが鍛えたラグナロクを持ってのう!獄竜王の誕生までに間に合うかもしれん。さすが!わしが見込んだ通りじゃ!」

 体中泥だらけのままで、有頂天になって話す。

 そうなのだ。マリックが子供であった当時、人類はモンスターに押しに押され、モンスター勢力はウォリス島からサギヌマ橋を超えてキシリア大陸まで拡大しつつあった。

 そのような状況下で、人類にとって悪い情報といい情報が1つずつあった。

 悪い情報は・・・

「暗黒神官セムの元、新たな竜の王が生まれようとしている。」というものだ。

「竜の王」この名を聞いただけで大人から子供まで震え上がる。

 これまで人類を何度となく恐怖のどん底に叩き落してきたモンスターのボスだ。

 いつ、どのようにして生まれるのか?それを知る人間はいない。

 一方でどの人間でも知っていることは、暗黒神官の指導/教育を受けて生まれ育った竜の王はその時代、その地域に未曾有の災厄をもたらす、ということだ。

 生まれ持っての高い知能/破壊力/破壊衝動に狡猾さ、知恵が加わって手が付けられなくなるという話である。

 今はまだ卵から孵化していない。だが時間の問題で暗黒神官セムが万全の態勢で獄竜王の生誕を待っている・・・。

 この情報を手に入れるためにどれだけの貴重な戦力が失われたことだろう。

 一方で、いい情報というのは「白銀の勇者の出現」である。

 獄竜王の生誕が近い。という情報に人類が驚愕したまさにその頃。

 暗黒神官セム率いるモンスター軍は勢力を伸ばし、キシリア大陸の有力な王国の1つ、パルム王国と激しい攻防を繰り広げていた。

 パルム城につながる街道に全モンスター軍を布陣。

 セムは明朝からの全面攻撃の作戦をモンスターたちに伝えた上で満腹まで食べることを許可した。

 さらにセム軍直属の四天王の一角、ピサロが何者かに倒されたことを発表した上で、その何者かを倒したものには四天王の座を与えるとした。

「ウオォオオーーーー!!」

 モンスター軍の士気はこの上なく高まっていた。西の空が赤く染まり始めている。それは突然のことだった。

「ドゴーン!ボゴゴーン!」

 ビリビリと大気の震えと耐えがたい高熱を感じた。相当距離が離れているにも関わらず、である。

「どうした?何があった?」

 にわかに瞑想を中断されて不機嫌極まりないセムが、側に控える感知能力の高いモンスターに問う。

「・・・わかりません。突然、けた違いの魔法力が炸裂して・・・。」

「強力な魔法使いか。魔法耐性の高いパワー系を押し出せ。少々やるかもしれんが、魔法使いなど、接近戦で終わりだ」

 セムは闘いで負けたことなどなかった。

 自分自身の高い戦闘力と、その戦闘力を使う必要すらない知能と知識、作戦遂行能力。愚かな人類に遅れをとるはずもない。

 今日もいつも通り、勝つだけだ。いつも通り・・・。

 すぐに訪れるであろう、側近からの勝利報告は絶叫に取って変わられた。

「と、止まりません!!なんだあいつは?ただの魔法使いではありません。矢のように、矢のようにこちらに向かっています!」

 再び瞑想を中断されたセムは信じられないものを見た。

「ズバッ!ズバババッ!ドン!ドゴゴゴーン!」

 自分の命令で接近戦を挑んだパワー系のモンスターたちが紙くずのように剣で切り落とされ、臆して距離をとった者は超絶高等魔法でことごとく吹き飛ばされてゆくではないか。

 ときおり雷のように光を発しながら炸裂する剣術と魔法、そしてその光を反射する全身を覆う白銀のよろい。

 光の矢の周囲にいる味方がみるみる崩されてゆく。そしてその光は一直線にここ、セムがいる場所に向かっている!

 こいつはただの魔法使いではない。そしてただの剣豪でもない。

 信じられない、信じたくないレベル・・・。四天王のピサロを倒したという勇者はこの男に違いない。

「おおおおおおおおおーーーーー」

 にわかにありったけの暗黒魔法力を練るセム。

「極・スロウ」

 ブゥワァアアーン。

 自分のもとに一直線に向かってくる脅威を含む広範囲に対して、最も得意とする時魔法をかけた。

 この魔法は有効範囲一帯の時間の流れを極限まで遅くする魔法だ。この範囲にいる者は一定期間、通常の時間の流れから隔絶される。

 すなわち、あたかも時が止まったかのように動きが遅くなる魔法だ。電光石火で向かってきた敵も例外ではない。その動きを遅くした。が・・・

「こやつは化け物か??」

 セムは戦慄した。極限まで遅くなった時間の中だ。動きは遅い。確かに遅い。

 その中でもこの敵は、他のモンスターとは次元の違う速さでモンスターたちを無双しながらこちらに向かってくるではないか。

 そして、ここまで接近されたからこそはっきりと見える。戦いのさなかであるにも関わらず、敵の目はまっすぐに自分を見据えている。

「この敵は危険だ」

 本能の全てが最大級の警鐘を鳴らしている。時魔法が効いているうちに、今、この瞬間に手を打たなければ・・・。

 実はこの魔法、「時間」を司る高等魔法ではあるが、万能ではない。

 有効範囲にいる者の動きは確かに遅いが、その有効範囲に入ったら武器であれ魔法であれ、例外なくその時間の流れに支配されるのだ。

 脳をフル回転させてありとあらゆる選択肢を検討し、セムが選んだのは味方に多大な犠牲を強いるものだった。すなわち、

「全軍、全速でウォリス城まで撤退せよ!」であった。

 時魔法の有効範囲外の味方に対して、魔法の効力が切れる前に撤退することを命じたのである。

 これはすなわち、時魔法の有効範囲内の味方を見捨てたということだ。

 セムの放った時間を司る高等魔法は広範囲に及び、味方の多くのモンスターたちを巻き込んでいた。

 逆に、そこまで広範囲でなかったら敵を捕捉できなかったであろう。

 セムは味方を敵の真っただ中に残して撤退し、ウォリス城に撤退したのだ。

 魔法の有効時間が切れ、極度に遅い時間の流れから解放されたモンスターたちが見たものは、自分たちを囲む完全装備のパルム兵たちだった。

 モンスターたちは全滅し、セムは全軍の約10%もの兵力を失ったのである。

 大勝利に終わり、歓喜に沸くパルム兵たちの中でその勇者は

「暗黒神官セムを逃がしてしまった・・・。まだまだです。」

とつぶやき、去っていったらしい。

 パルム城下の戦いからさほど時をおかずに、ついに白銀の勇者はウォリス城につながるサギヌマ橋付近まで到達した。

 その知らせを聞いた父が喜んで帰宅したということだ。

 話をするマリックは完全に興奮状態だ。

 リーベルとジャンも夢中で話を聞いている。と。

「おっと。もうこんなところかい。もうすぐ町に着くがじゃ。」

 道沿いには桜が咲きほこり、夕焼けを映してほのかに赤く染まっている。結構な時間歩いたということだ。時間が経つのが早い。

「あそこに見える丘を越えたら町が見えてくるがじゃ。話の続きは町に着いてからじゃのう」

 今日は野宿ではなく、町で体を休められそうだ。ほっと胸をなでおろしながら上り坂を登る。

 その途中、何やら騒がしい音が聞こえてきた。

「・・・キキー!」人の声とは思えない高い声。

「・・・こっちに来たぞ!ぐわっ」

 丘の頂上に近づくほど、はっきりと聞こえてくる。誰かが争っている?

「何があったがじゃ?」

 マリックが言うよりも早くリーベルとジャンは駆け出していた。丘の上に立った二人は見た。

体の大きさはネズミくらいだろうか。

その体の背からオオワシのような大きな羽が生えた青色のモンスターが空中を飛び回り、町を襲っている!

大人たちがスキやクワを手に追い払おうとしているが、劣勢のようだ。

たまたまそばにいたのか、お花がたくさん入ったカゴを持った小さな女の子が声も出せずに立ちすくんでいる。

「アイリーン!」

マリックの声を背中の遠くに聞きながら、リーベルは空を飛ぶ青色のモンスター目がけて突っ走った。

つむじの妖精 ジン

それっ!それっ~!つむじの妖精、ジン様のスピードについてこれるかな?おいら、人間の大人にだって負けないぜい!シュッ!シュッ!ノロいノロい。わっと、アブねー!
いきなり矢を打ってきたのは誰だ?ん・・・君たちだな~?ちょっと危なかったじゃねえかい。その顔は・・・やる気だな?おいら手加減はできねえから、覚悟しろい!

ペンタコイン×3枚

①英語(TOEIC)や簿記などの資格学
 習やお子さんの漢字/計算学習など
 習慣づけしたいことを「1日30
 分」あるいは「1日30回」実施して
 ください。
②1日できたらペンタコインを1枚ゲ
 ット。つむじの妖精 ジンは3枚持っ
 ているので3日実施出来たらあなた
 の勝利です。次のストーリーに進ん
 でください。

つむじの妖精 ジンの紹介

いたずら好きな風を操る妖精。大きな羽で風に乗り、空を飛ぶことができる。何の役にも立たないが、空中でバレリーナのようにくるくる回れる(スピンできる)ことが自慢。好きなものはかるた。嫌いなものは雷で、雷が鳴ると木の根元で震えている。

勝ったら第3話へ

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ABOUT ME
ねじ男爵
子供の頃の私と同じくゲーム好きの息子。小学校の漢字テストで驚愕の点数を叩き出す。ゲーム感覚で学習できたらと「ドラゴンスタディ」を考案しました。ストーリーを一緒に読み進めると楽しいらしく、点数は大幅UP(それだけ余地があったということ)。机に向かう習慣も付きました。興味を持った妻も「まあまあじゃない」と自分の医療系の資格勉強に利用してくれました。(平均)66日で習慣化します。1人でも多くの方が自分の目標を達成できるお手伝いができたら嬉しいです。