魔法というのは戦う相手からするとこんなにやっかいなものなのか。
どう戦ったらいいか、全くわからない。それだけ魔法は戦いにおいて有効だということだ。
何度か接近戦を仕掛けたが、敵は杖で応戦してくる。魔法を使えるからといって、接近戦が苦手なわけではないらしい。
少しでも気を抜いたらリベールでもやられるレベルの技術だ。かといって、距離を取れば一方的に魔法を浴びるだけ。この強さで偵察隊だって?四天王ヒュードラ軍とはどういう強さなのか。
額から汗がしたたり落ちた。必死に打開策を考える。今の時点でわかったことはこの敵は「炎熱系」の魔法を得意としているということ、そして魔法は連続で発動できなさそうだ、ということだ。
これまで一度も連続で魔法を打ってこないことからそう考えた。となれば、いまリーベルができることはただ一つ。
接近しながら敵が放つ魔法を受け流す。そして接近戦の準備ができていないうちに剣で倒す、という作戦だ。
ポイントは「接近しながら」と「受け流す」だ。「接近しながら」でないと、仮に魔法を受け流せたとしても接近するまでに時間がかかる。距離を取られてしまうだろう。
そして「受け流す」理由は仮に魔法を受け止めてしまうと前に進むスピードが落ちてしまう。そうなると同じように接近するまでに敵に距離を取られてしまうからだ。
「受け流す」についてはマリックさんがくれた想いの盾があるから自信があった。こうしている今も自分の手足のように扱えるような研ぎ澄まされた感覚がある。
ただ敵が連続で魔法が発動できるならば、そこで勝負は決まってしまうかもしれない。しかしリーベルはそれは「ない」と考えた。
じり、じり・・・。間合いを少しずつ詰める。
「すー。すー。」
自分の呼吸だけが聞こえる。来た。敵が魔法を発動する時の動きを示した。刹那、リーベルは敵に向けてダッシュした。
「ファイア」
ボォオォォォー!
悪意を持った炎の球が近づいてくる。
「おおおおおー」
リーベルは叫び、前方に走りながらその恐るべき炎を右後方に受け流すよう、絶妙な角度で想いの盾を傾けた。
「ドン!」
当たった!熱い!盾ごしに耐えがたい高熱を感じる。次の瞬間、炎の球は角度を変えて後方に飛んで行った。多少のダメージを受けたが、前に進む勢いは止められていない。
「いける!」
敵は炎の魔法を発動した直後で接近戦の準備ができていない。かろうじで右手の人差し指を自分の額に当てただけだ。
勝利を確信したリーベル。剣を振り下ろそうとした。その時、
「リープ(跳躍)」
ブン。
敵がいなくなった。いや、正確には敵が遠くなった。距離にして2メートルくらいだろうか。信じられないことにノーモーションで突然、敵が「2メートル後方に移動」したのだ。
「リープ(跳躍)」という魔法だ。
当然、リーベルの剣は空を切った。渾身の力を込めた斬撃が空振りをしたらどうなるか?バランスは崩れ、スキだらけになる。
「やられた」
リーベルは自分が振るった剣の勢いでバランスを崩しながら思った。
「敵は魔法を連続で発動できたのだ」
少なくともこのモンスターは「炎熱系」の魔法と「移動系」の魔法を連続で発動した。それまでは単発でしか魔法を放っていなかったが、それは罠だったのだ。
「・・・・・・!」
動けない。絶体絶命。その時、
ザザザザザァアアー。
ものすごいスピードでモンスターに接近する黒い影。背の高い草木でもそのスピードを弱めることができない。
スナイデルだ。
勝利を確信していた敵のモンスターも、突然出現した脅威を警戒せずにはいられなかった。
「疾風めがー!」
敵はスナイデルの方を向き、一瞬動きを止めた。2メートルの近距離。リーベルにとってはその一瞬で十分だった。
ザン!
一太刀だった。
「はあっ、はあっ、はあっ」
スナイデルが来てくれなければ、完全に負けていた。村に戻るまでの記憶が全くない。その夜は一睡もできなかった。
次の日。
「ひょーっほっほっほ。らくちん!らくちーん!」
彫刻売りのおじいさんがリーベルの背中でおんぶをされながら有頂天になっていた。
「年寄りは大切にせんといかんからのう。若いのに感心、感心」
「ねえ。危険なのは確かだから一緒に行くのはいいけど、おんぶまでいる?自分で歩いてくださいよ~」
自分がおんぶをしているわけではないジャンがほっぺをふくらませて不満を言った。
「お年寄りは大事にするでちゅ」とくっぴー。
「僕なら大丈夫。鍛えているから平気さ。この辺は足元も悪いし、おじいさんが足をくじいたりした大変だから」
「ほっほっほ。感心、感心」
おじいさんは満足そうだ。一行は小さな村を出発し『サギヌマ橋』に向かっていた。
もちろん目的地はモンマルトル寺院だが、少し迂回すると獄竜王が封印されているウォリス島が近いことを聞き、先にそちらを見に行くことにしたのだ。『サギヌマ橋』とはキシリア大陸とウォリス島をつなぐ橋のことだ。
おじいさんは帰り道が同じらしいのでボディガードも兼ねて同行している。おんぶすることになるとは思っていなかったが。
「なんだかドキドキするね。サギヌマ橋に着いたら、その先に獄竜王がいるってことでしょ?3つの聖石を手に入れたらいよいよ・・・」
ジャンの言う通りだ。いまサギヌマ橋に着いても無敵の結界を解けるわけではない。しかし、この目で見ておきたい。旅の目的につながる道を。
ザッザッザッザッ。
「この林を抜けたらそろそろだぞ」
スナイデルが言った。周りには高い木々に豊かな葉が生い茂っており、太陽の光を遮断している。昼間なのに薄暗い。トンネルのような林を抜けると一気に視界が開けた。
ビュー・・・。
風が強い。海を隔てた正面に大きな島が見えた。ウォリス島だろう。距離的にはそんなに遠いわけではなさそうだ。ドズル島の上空は灰色の雲がかかっており、不気味な印象を与えている。
そしてその島に向かって真っすぐ伸びている大きな橋。『サギヌマ橋』だ。思っていたよりも幅が広い。この広さがあれば、モンスターの大群が通ることも容易だろう。
「・・・おっきいね・・・」
ジャンがなんとも言えない顔をしている。
何年前になるのだろう。白銀の勇者はモンスターで埋め尽くされたこのサギヌマ橋をたった一人、獄竜王を倒すべく渡ったのだ。どんな情景だったのか。自分の頭の中でイメージしようとする。
さらに橋に近づくと、あることに気づいた。サギヌマ橋の入口を含めたウォリス島の周り一体に、膜のようなものが張っているのだ。
それは透明で向こうの景色は透けて見えるが、うすーく白い色をしている。シャボン玉のように表面が伸び縮みしているようにも見えた。これが「無敵の結界」なのだろう。
『サギヌマ橋』の入口まで来た。白色の結界が目の前にある。
「触っても大丈夫?」
リーベルが聞いた。
「そっとならな。強い力を加えるほど、反発が大きくなるぞ」
スナイデルが教えてくれた。リーベルはそーっと手のひらを近づけて、結界に触れた。すると、
バシッ!
手が弾かれた。痛いということはないが、強い「拒絶」を感じた。これが誰にも破れない無敵の結界。
「リーベル!ここを見てよ」
ジャンがこっちにおいでと手招きしている。行ってみるとジャンの目の高さくらいに3つ、光の球のようなものが浮いている。
その光の中には白い煙のようなものが揺らいでおり、それぞれ「勇気」「知」「力」という文字が読める。きっとこの光の中に3つの聖石を入れると結界が解けるのだろう。
ゴクリ。
リーベルは唾を飲み込んだ。そうだ。これが現実だ。
スナイデルたちモンマルトルも四天王ヒュードラ率いるモンスター軍も、目的は正反対だが両方この結界を解きたいと考えている。
あと1つ「力の聖石」を手に入れれば結界は解ける。しかし、結界を解くこと自体は目的ではない。結界を解いてウォリス城にいる『獄竜王』を倒すのが目的だ。もし結界を解いたとしても獄竜王を倒せなければどうなるか。
獄竜王は外の世界に出てしまい、人々は今以上に苦しむことになるだろう。世界征服をたくらむモンスターたちに力を貸すことになるのだ。
そして先の戦い。魔法を使う敵との戦いは初めてとはいえ、自分ひとりで偵察隊のモンスターに勝つことができなかった。今の自分の力はその程度だということだ。これが現実。
「ふー」
リーベルは深呼吸した。そして
「スナイデルさん。これからモンマルトル寺院に行きますが、剣聖ルークに会う前に、僕たちを修行してもらえませんか?」
「・・・どういうことだ?」
スナイデルが聞く。
「今の僕たちには全く力が足りません。僕たちの目的は結界を解くことではなく、獄竜王を倒すことです。それができる力を付けたいんです」
「・・・。そうか。自分で気づけたのはたいしたもんだ。自分の弱さを認めるのは難しいもんなんだがな。もし今の実力のまま、『結界を解くんだー』なんて言っていたら俺がガツーンとお灸をすえてやろうと思っていたんだが。よかろう。まずはモンマルトルに行くか」
「ひょっほっほっ。若いというのはええのう」
彫刻売りのおじいさんが笑顔であごひげをなでている。さすがにもう自分で歩いている。昨夜から眠れずにずっと考えていたことだ。ジャンもそう思っていたようで、同意してくれた。
「仲間って素敵でちゅ」くっぴーが嬉しそうに言った。
サギヌマ橋を離れ、モンマルトルに向けて出発した一行。深い林と渓谷を抜けた後、今は山あいの切り立った階段をひたすら上っている。
「こんな急な階段ってどうなの?一回足を踏み外したら下まで落っこちちゃうよ」
ひたいに汗の玉を光らせながらジャンが言った。確かにすごい角度だ。リーベルは自分の足腰に自信があったが、太ももが悲鳴を上げそうだ。
横を見るとスナイデルは涼しい顔をして上っている。レベルの違いを感じた。気づけば彫刻売りのおじいさんはいつの間にかいなくなっていた。自分の村に帰ったのだろう。
「まあ、そういうな。もうじき着くぞ」
スナイデルの言葉にホッとする。それでもしばらく歩いた。・・・と、永遠に続くかと思われた階段に突然終わりが訪れた。
「着いたぞ」
スナイデルが言った。
ザッザッザッ。
最終の階段を登りきる数段前から見えてきた。小さな寺院とその前に広がる砂地の広場、そこに・・・
「ハッハッハッハハッー!オーイ、ハッハッハッハハッ!オーイ・・・」
なんと表現したらいいのだろう?
数十人?数十体?数十機?
人と、モンスターと、ロボットだろうか。
こんなにもバラエティに富んだ個体が、手には思い思いの異なる得物(武器)を持ち、それぞれ異なる動きではあるが、一定のリズムで武術の修行をしているではないか。
ぶるぶるっ。
リーベルは身震いした。すごい。この多様性・・・。自分の中でここまで明確になっていなかったが「世界がこうあったらいいな。こうなったらもっと楽しいのにな」とぼんやりとイメージしていた世界がここにあった。
「スナイデルさん!?」
リーベルの声はつい大きくなった。
「ああ。モンマルトル寺院ではどこの誰であっても『学びたい・自分を高めたい』と考える者に対して門戸は開かれている。人間か?モンスターか?ロボットか?そしてエルフか?など全く関係ない。みながそれぞれ自分が望む未来を精一杯追い求めている。結果はあくまで結果だ。それを追い求める過程、そのものが光り輝くのだ」
リーベルはしばらく言葉を発することができなかった。
「ここは『守の間』といってな。モンマルトルで修行する者たちが最初に学ぶ場、ということになる」。
それぞれの真剣なまなざし。一刻も早く一緒に修行したい。武者震いとはこういうことなのか。
リーベルの想いはにわかに発生したドラムの音にかき消された。
ドン!ドン!ドン!ドン!ドドドン、ドン!
「ウォオオオー!」
山あいの急斜面から突如現れたモンスターたちが、今まさに修行中の者たちに襲い掛かった。
「いまだー!いけー!」
「疾風と魔女、そしてルークはいない。今のうちにモンマルトルを攻め落とせー!」敵のモンスターたちの咆哮が聞こえた。
ヒュードラが放った偵察隊だろう。その偵察の結果、剣聖ルークと疾風(スナイデル)、そして魔女(これは誰なのかわからない)がいないと悟った偵察隊がそのまま攻めてきたのだ。
ほんの10秒前まで修行していた『守の間』の者たちはすぐさま迎撃態勢を取っているが後手になったことは否めない。
「リーベル!ついてこい!」
スナイデルさんは雷のように走りだした。
「はい!」
リーベルも後を追う。しかし、さすが『疾風』と呼ばれるスナイデルだ。全くついていけない。距離が離れた。その刹那、空からリーベルを狙う影が舞い降りた。
死角から飛んできたその攻撃をリーベルは前方受け身をすることでかわした。
「ケーケッケッケッケー。偵察隊隊長のわしの攻撃をかわすとは、なかなかやるのう。それとも偶然つまずいただけか?どちらでもよいが、モンマルトルの戦力は激減していることはわかっている。長年の宿敵であったお前たちとの決着をつけるとしようか!」
リーベルは先行したスナイデルの背中を見た。モンマルトルの仲間を助けることで必死で余裕はなさそうだ。
自分が倒すしかない。この敵は偵察隊の隊長だと自分で言った。以前戦った魔法使いよりも強いということだ。
リーベルは最大集中した。
六本腕の偵察隊隊長 阿修羅
ケーッケッケッケー。どんどん行け!ルークと疾風、魔女がいないうちに遠慮なく暴れてやれ!たとえ聖石を奪えなくても、モンマルトルの戦力を削るだけ削ってやるとしよう。ヒュードラ様にいい土産を持って帰れそうだわい。昨日、魔法使いの部下が戻ってこなかったことだけ気になるが・・・。小僧。やる気なんだな? いいだろう。少しだけかわいがってやろう。子供を凍らせたらどんな彫刻が・・・。
ペンタコイン×3枚
①英語(TOEIC)や簿記などの資格や
受験勉強、お子さんの漢字/計算
学習など習慣づけしたいことを「
1日30分」あるいは「1日30回」
実施してください。
②1日できたらペンタコインを1枚ゲ
ット。六本腕の偵察隊隊長 阿修羅
は3枚持っているので3日実施出来
たら勝利です。次のストーリーに
進んでください。
六本腕の偵察隊隊長 阿修羅
6本の腕による連続攻撃と口から吐き出す凍てつく息のコンボに絶対の自信を持っている偵察隊の隊長。偵察中、敵に見つかったとしても凍てつく息で静かに凍らせてしまえば周りにバレることはないから自分の能力は偵察隊にぴったりだと考えている。凍らせた敵が凍りの彫刻のように固まっている様子を眺めるのが大好きで。密かに詩的な作品名を付けて楽しんでいる。