「えーっと。ナイフは入れたし、麻袋も2つ。オッケー」
リーベルは荷造りをしていた。なんだかずいぶん前の、旅の出発を思い出した。
『離の間』に向かう準備をしているのである。『離の間』といっても小さな無人島に行くのだ。これから半年間、サバイバル生活をすることになる。
とはいえ、冒険自体がサバイバルなので特別なことをするわけではなかった。少し違う点は・・・
「キュピピピピ。ジュンビはオッケか?」
ロボットの存在だ。「ラムダ・KZ-Xクロ」というらしい。以前六本腕の偵察隊隊長から守ってくれた、あのロボットである。
『離の間』の師範代だ。『離の試練』はある意味一番わかりやすい。これから無人島にこのKZ-X・クロと行き、半年間過ごして生きて帰ってくる。それができたら合格だ。
「おう、リーベル。半年間会えなくて寂しいが、頑張ってきな」
スナイデルとアリサ、ジャンとくっぴーが見送りに来てくれた。
「いいことを教えてやる」
スナイデルが耳元でささやいた。
「一番きついぞ」
目を大きくしてスナイデルを見返すリーベル。
「もうー。脅かさないでくださいよ~」
「教えられることは教えたってことよ。後はひたすら実践あるのみ」
アリサが優しく言った。
「修行なんだろうけど、食べ物とかも全部一人でやるわけでしょ?僕だったら餓死しちゃうよ~」
まだ『破の間』で稽古中のジャンがふてくされて言った。
「リーベルはすごいでちゅ。ぽっくんも頑張るでちゅ」
くっぴーが周りを飛び跳ねている。
「デハ、イクぞ」
シュィイイイーン!
滑るようにKZ-X・クロが進んでいった。
「では、行ってきます。必ず帰ってきます!」
深く礼をした後、振り返ってKZ-X・クロの後を追った。
モンマルトル寺院から歩いて3日。クロとリーベルはある海辺に到着した。右正面に小さな島が見える。あの島が稽古の舞台らしい。
島に向けて、小さな橋が架かっている。サギヌマ橋とは比較にならないくらい小さい。話では、リーベルとクロが橋を渡った後、戻って来られぬように橋を破壊するらしい。だから大きい橋を作っても無駄なのだという。
覚悟は決めてきたつもりだが不安が胸をついた。これが自分が選んだ道なのだ。もう一度、心に強く誓った。
「ベストを尽くす!」と。
シュイイイイイーン。
クロの後を付いて橋を渡った。島に着いた第一印象は思ったよりも広そうだ。ということだ。ここで半年、ロボットとのあくなき孤独な戦いが始まる。
出発前にスナイデルが『離の試練』について教えてくれた。
食べている時も、寝ている時も、いついかなる時も、決して油断してはいけない。自分の常識は捨て去りなさい。KZ-X・クロはロボットだから疲労はない。睡眠も取らない。昼も夜も関係ない。常にリーベルのことを狙っている。
食べ物も自分で獲れなければ食べるモノはない。食べるモノを探している時もクロは襲い掛かってくるだろう。そんなのひどいって思うか?でも考えてみろ。戦いとは、そして生きるというのは本来そういうものだ。言い訳が一切通用しない世界。そこで生きる力を身に付けるのだ。
ボゴォオオーン!
にわかに轟音がした。見るとクロが今渡ってきた橋を破壊していた。何か赤色のビームのようなものを発射したようだ。
キュイーン。
リーベルの方を向いたクロ。そして・・・
「デハ、『離の試練』をハジメル。期限は6カゲツ。100数えタラスタートだ」
その話は聞いている。こくり。うなずくリーベル。きびすを返してクロと別れた。背の高い草が茂った森の中を進む。
この島にたどり着いたのは夕方だ。まずは寝るところを確保したい。しゃがんで土を調べた。手で触り、においをかぐ。小さい頃から大自然の中で育ち、遊んできたリーベルからすると、この無人島は食べ物という点では不自由しなさそうだ。
土が肥沃なので様々な植物が育っている。そして植物が育っているということは、動物や昆虫類も育ちやすい環境ということだ。海に行けば魚も獲れる。戦闘面はともかく、食料面での心配はしなくてすみそうだ。少し安心した。
ガサッガサッガサッ。
森の中、乾燥した葉の上を歩きながら適当な寝床を探す。理想は視覚的に遮蔽され、かつ乾燥した地面。湿った地面の上で寝ると体温と体力を奪われるからだ。そして外敵の接近を察知できるようこちらからは一定程度視界が広がっている、という場所は・・・
ガサッガサッガサッガサッ。
探しながら歩いていると突如、何か違和感を感じた。リーベルが後ろへバックステップすると、
ジャキィイイーン!
地面から鋭い刃が飛び出てきた。リーベルがあと一歩でも歩いていたら足にダメージを受けていただろう。そして・・・
ザザァザザアアァアァアー!
なんと地面の中からクロの巨体が出てきた。そして
キィイイーン!
四本ある手の1本で襲い掛かってきた。
キィンキインキキキィンキィン!
なんて受けづらいのだろう。ロボットなので重心の移動もわからない。だから相手の動きが読めない。そう、予備動作がないのだ。
いきなり防戦一方。いや、そもそもいつの間に地面に潜っていたのだ。100数えたら、とクロと別れてからそんなに時間は経っていない。なぜだ?考えながら必死で受けていると、
「ガコン!」
背負うような形でクロの右背中に付属していたランチャーが前に倒れた。リーベルに向けられた長方形の発射口が赤く光ったかと思うと・・・
ボォオオオー!
火炎放射のような炎がゼロ距離から発射された。首をひねってなんとかかわした。が、危なかった。そしてリーベルは理解した。
「魔法とはコアの位置が異なる」のだ。
いまの攻撃はたまたまかわせたからいいものの、魔法とはコアの位置が異なっている。仮に『気』を当てて防御するとしたら、魔法とは異なるコツが必要になるということだ。それはそれとして、クロの猛攻は続いている。
ギィギンギィンギィィィィイッギギイー。
四本腕の攻撃をなんとか受ける。周りの木が邪魔で足さばきを上手く使えない。
「んー・・・」
なかなか攻撃に転じることができないリーベル。すると、急に攻撃が止んだ。
キュイーン。シューン。
木々の間を上手にすり抜け、暗くなりつつある林の奥に消えていった。
「はあっはあっ」
一体何だったのか?2つの試練を乗り越えたリーベルが一戦でこんなにも疲労している。あのまま戦っていたら、まずかった。
でもクロは急に戦いを止めて去っていった。意図も、動きも、コアもわからない。
何がなんだかわからないがもう夕暮れ。体力を回復させるためにも、まずは寝床を確保したい。
少し歩くと、いい場所を見つけた。海沿いだが、少し小高い位置にあって地面は乾燥している。周りは見晴らしがよく、仮にクロが接近したとしてもわかりやすいだろう。
よし。寝床はここに決めた。お腹が減ったのでモンマルトル寺院から持ってきた乾パンを食べる。すると、お腹を刺激したからか、もっと食べたくなってきた。
太陽は沈み始めているが・・・。よし。間に合う!とリーベルは判断した。
ザブーン!
海に飛びこんだ。辺りにあった木で簡単なもりを作って海に潜った。大丈夫とは思うが、念のため腰に剣は佩いている。海に入る時も最新の注意を払った。周りにクロはいない。
元々もりで魚を突くのをリーベルは大の得意としている。どれだけ海で獲った魚を食べてきたことだろう。薄暗いが、海に入った瞬間にわかる。魚が多い!
よし。魚をたべて今日の疲れを癒そう。そう決めた。潜っていると、岩の影に大きな魚影を確認した。
あれだ。そーっと岩陰から大きな魚に近づく。相当大きい。もりを握りなおした。突くぞ!思い立った瞬間、大魚が振り返った。水の中でも聞こえた。
「キュピーン。ピピピピ?」
明らかに電子音。クロだ!なぜここに?
ブワァー!
慌てて海面から飛び出たリーベル。半年続く、地獄の試練。その始まりの始まりだった。
ラムダ・KZ-Xクロ
ダイシゼンの、中での、セイカツは慣れているようだナ。ダガ、イツ、どんなトキでも、ユダンするな。修業シタコト、出せずに負けるコトもアル。テキは、あらゆるホウホウで、オマエの強みをつぶそうと、スル。タタカイとは、そういう、モノ。コノ半年、デ、オマエヲ、鍛える。テッテイテキに。 クロ、との、ヤクソク、マモル。
ペンタコイン×3枚
①英語(TOEIC)や簿記などの資格や
受験勉強、お子さんの漢字/計算
学習など習慣づけしたいことを「
1日30分」あるいは「1日30回」
実施してください。
②1日できたらペンタコインを1枚ゲ
ット。ラムダ・KZ-Xクロは3枚持
っているので3日実施出来たら勝
利です。次のストーリーに進んで
ください。
ラムダ・KZ-Xクロの紹介
モンマルトル寺院で「離の間」の師範代を務めるロボット。自分で考え、自分で動く自立型のロボットで絶大なる戦闘力を持つ。永久機関である上に超高等性能である「セルフリペア」という自己修復能力を搭載している。自らの形態を変化させてあらゆる環境に適応できるため、特にサバイバル戦が得意。奥の手として強力な結界術を展開することも可能。